『幻象録』が刊行されました

雑誌『現代短歌』(現代短歌社)誌上で、2019年3月号〜11月号に連載していた「歌壇時評」および2020年1月号〜2023年11月号に連載していた「幻象録」が、『幻象録』(泥文庫003)という一冊の本にまとまりました。
刊行元は、現代短歌社を運営している三本木書院の中の別レーベルである泥書房です(ややこしいですね)。
何の本かというと、短歌の時評のようでもあるし、短歌に限らず文芸評論のようでもあるし、割と社会の話をしているようでもあるし、時には日記のようなエッセイのようなものだったりもします。


成立の経緯

もともと、半年交代制の「歌壇時評」の欄を2019年3月号から担当するという話だったのですが、第一回を書いた時点で「半年といわずもっと長く書いて書籍化しましょう」と編集長から言われ(編集長もなんというか勢いがあるなあ)、それじゃあということで書き続けたものです。
2020年1月号からは誌面がリニューアルして隔月刊になり、そのタイミングで「歌壇時評」より自由度が高く、ボリュームもあるコーナーをして用意してもらうことになって、「幻象録」と名付けました。


「幻象録」で何を書くかは決めていなかった……というより、「歌壇時評」の時から、「歌壇」とは何だろう、「時評」とは何だろう、「時」とは、「評」とは? と何もわからなくなりながら書いていました。
「時評」と言うからにはその時その時の時勢がわかるような話題を取り上げて評すべきだろうけれど、何か共有された「歌壇」というものがあって、共有された今日性というものがあるという前提、あるいは、自分の取り上げたものがその歌壇の共通の話題に加わっていくという構造、みたいなものが怖かったり。
なので、「幻象録」をスタートする時には、何を書くべきかは決めていなかったのですが、結局わりと歌壇時評的なものを今の自分が負っている責任と感じて書いていたように思います。


内容

結局のところ、ずっと、文学と社会の関わり、この社会とは無縁でいられない、無垢でいられない文学が果たさなくてはならない責任、のことを書いていたようです。

目次を開くと、文学における倫理と「政治的正しさ」とは何か、差別表現とは、「表現の自由」とは何か、「価値観の変化」や「多様性」、「分断」といった言葉の濫用によって曖昧にされているのは何か、などのトピックが並んでいます。

私は、ずっと、怒りながら書いていました。「あとがき」にも「怒り」について書いているくらいです。

わたしの文章に美質があるとすれば、感情と論理が切り離されていないところだろうと思う。(略)わたしは感情を殺すことなく、むしろ研ぎ澄ませて外界と相対し、心が知らせたことを論理的に整理し、分析して、他者と共有可能なかたちにしようとしてきた。わたしはずっと怒っていて、同時に、その怒りを開かれた場に置こうとしていた。そうなのだと思う。 (「あとがき」より)

怒っていて、怒りを殺さず、怒りをぶつけるのでもなく、丁寧に言葉にして手渡すことが贈り物になると信じて書き続けていたと思います。


できるだけ善くありたい、この社会をすこしでも善くしていきたいという願いが愚直なくらい表れた文章でもあると思います。


こんな人におすすめ

・短歌に関心がある人
・文学と社会の関わりに関心がある人
・評論が読みたい人
・表現と「差別」や「多様性」、「ハラスメント」などについて考えたい人
・怒りや違和感を持っている人

etc.


買える場所

泥書房のオンラインストアで買えます。

実店舗だと、三本木書院(現代短歌社・泥書房)の本は取り扱いのある書店さんが限られていまして……(取次のシステムがよくわかっていないのですが、三本木書院は取引を介さない直取引がメインなため?)

現時点で仕入れてくださっているのは以下の書店さんです(随時更新します)。

がたんごとん(小樽)
ボタン(仙台)
紀伊國屋書店新宿本店 

ジュンク堂書店池袋本店

本屋B&B(下北沢)

古書ソオダ水(早稲田)

葉ね文庫(大阪)
泥書房(京都)
本のあるところajiro(福岡)
ほか、八木書店経由で取次の東販・日販にも入るとのこと。

うちでも置きたいと思ってくださる書店さんは、三本木書院さんか取次の八木書店さんにご連絡ください。


文庫本で360頁、1800円+税です。
単行本ではないので店頭で探すとき注意してください。ちょっと小さいです。
サイン本も順次入荷されている模様です。

川野芽生 Megumi KAWANO

歌人・小説家川野芽生のオフィシャルサイトです。